| 月まで行ったボルボ |
「ボルボで月まで行ってみませんか」 一年前、Kさんが受け取ったメールである。 Kさん一家は、その時、1年間のスウェーデン滞在を目前としていた。すでに、スウェーデンに滞在している日本人からメールでいろいろな情報を手に入れていたのだ。 スウェーデンの車は高い。車がないと生活できない国なのに、夫婦共稼ぎでも、一台しか所有していない家が多いのも、ひとえに車が高価だからだ。どのくらい高いかというと、例えば、わたしの走行距離8万キロ、1989年型の小さなルノーが、日本円にして60万円。新車なら、フォードの普通のクラスで200万円以上はする。 10万キロ以上走った、10年モノのボルボが100万円ぐらい。それも、友達価格である。日本では、10年前の車や、10万キロ以上の車は、売りたくても値段がつかない。 さて、そのボルボはその時すでに、364,000キロ走っていた。85年型のボルボ240である。価格は、12万円ぐらい。 わたしも知らなかったのだが、地球と月との距離は38万キロなのだそうだ。そこで、冒頭のキャッチコピーの登場となった。 そして、kさん一家はそれを買ったのだった。 今回は、そのボルボとkさん一家の一年をダイジェスト版でお楽しみいただきたい。 Kさんが買った時、エンジンは他の中古のボルボから移植されていた。12万円という価格はその移植代だったのだ。しかし、ちゃんと走る。 最初のトラブルはステアリング。ハンドルのかじがとれなくなって、修理。タイヤも他の中古タイヤと交換。ところが、このタイヤ、走っていると空気がどんどん抜ける。長距離でかけるたびに空気を満タンにしていかなくてはならない。 次のトラブルは盗難。ハンガリーまで旅行したのはいいのだが、車上ねらいにあって、助手席とトランクの鍵をこわされたうえ、荷物をごっそり盗まれる。今、脱いだばかりのホカホカの水着まで持っていったという。ちなみに、我が家は被害に遭わなかったが、東欧での車上ねらいは日常的なのだそうだ。ヨーロッパでは、どこの国から来たかわかるように車にステッカーを貼っている。スウェーデンならSのステッカー。つまり、それを見れば、外国から来た車が一目瞭然。そして、狙われる。わがやは、そのステッカーを無知のため貼ってなかったために難を逃れたらしい。 さて、その盗難の結果、トランクの鍵は取り替え。そして、このボルボには二種類の鍵が必要になった。 次のトラブルも大陸旅行中。アクセルが踏み込んだまま戻らない。これは、こわい。 さらに、トラブルは続く。聞こえていたノイズが止んだと思ったら、ギアが4速しか入らなくなった。 それを聞いた時、わたしは「ま、5速に入らなくても、4速で走れれば十分じゃない」と思った。甘かった。4速にしか入らないのである。ローもセカンドも入らないのだ。つまり、一旦止まったら、4速発進をしなくてはいけない。セコンド発進だって大変なのに。踏み切りや信号などでひっかからないように細心の注意を払って運転しなくてはならない。 多少の信号無視もしかたがない。また、そういう時に限って、なにも知らぬ小学生の息子さんが、気を聞かせて「お父さん、信号赤だよ」などと、いうものだから、「よけいなことをいうな」と怒られるはめになる。かわいそう。 これは、ギアボックスの交換で治った。 次のトラブルも旅行中。今度は、高速の入り口で、クラッチワイヤーが切れて完全に動かなくなった。日本で言うJAFのようなところに電話して牽引にきてもらう。人間ごとトラックの荷台に載せられて高速を走る。ヨーロッパの高速だから、隣を走るトラックの目の高さには、豚がたくさん。複雑な心境だったとか。 さて、それも修理して、めでたくこのほど3万8千キロ走破した。つまり、月まで行ったのである。ただいま、3万8千300キロ。すでに、折り返して、地球に向かっている。でも、地球に帰還はいくらなんでも無理だろう。 この車、長寿の秘訣は、なじみの修理工にある。彼は、英語もはなせるし、腕もよく料金も安いので、このあたりの日本人ご用達になっているようだ。 k夫人いわく、「でも、つくづくすごいと思うのは、スウェーデンの修理工は、こういうトラブルを全部治してしまうのよね。エンジンの移植までして。日本なら、買い換えた方が安いとか、直せないというところでしょ」と感心している。 わたしは、思わず、「でも、彼も、こう言う車に乗りつづけているkさん一家をつくづくすごいと思っていると思うよ」と言ってしまった。 さて、この月まで行ったボルボ、ワイパーも移植してピンク。右目も移植してフランス仕様の黄色いライト。おしゃれです。 3月に日本に帰るkさんからぜひ書いておいてと言われた一言。 どなたか、この車買いませんか。くず鉄やに売ると500クローナなので、それ以上の金額なら交渉に応じます。
|
メール |
喜怒哀楽トップ目次 |
スウェーデン報トップ |