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2000/4/14                  31号


喜怒哀楽

ただいまのテーマ

テトラパック

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 昭和30年代から40年代に小学校生活を送った方は、テトラパックという四面体の紙容器を覚えていらっしゃるかもしれない。それまで、重たい牛乳瓶を給食室から運んできたのに、テトラパックの牛乳は、瓶の分だけ軽いので、当番が楽になった気がした。片方が斜めに切られた短目のストローがついていて、それをさして飲むのだ。

 それが、スウェーデンのテトラパック社の画期的な発明だった。今では、あまり見られないが、テトラクラシックの名前で残っている。現在のテトラパックの主な製品は、ブリックパック。こちらは、どなたも多分目にした事があるだろう。いろいろな飲料会社で利用されている四角い紙パックだ。

 テトラクラシックが、なぜ画期的だったか。まず、それまで、液体飲料はガラス瓶に詰められているのが普通だった。ガラス瓶は重いし割れる危険性がある。そこで、創業者のルーベン・ラウジングは紙のパッケージ容器を開発したいと考えたのだ。ルーベンはその時すでに、包装機械の会社を順調に経営していた。そこで稼いだお金を、新製品の開発にまわしていたのである。
 紙のパックの中に液体を入れるというのは、すでに商品化されたアイディアとしてあった。しかし、テトラパックの場合は、紙パックにもかかわらず限りなく無菌に近い状態で充填し、常温流通を可能にしたのである。

 従来の紙パックは、平たくした半完成品を一つ一つ折り開いてそこに液体を詰めていた。そのため、どうしても、パックの中に空気が残る。また、充填の過程で雑菌がはいりやすい。
 テトラパックは流通の合理化に目をつけた。紙をリールのままで充填工場に運び、詰めた商品を常温で運べるように極力無菌化したのだ。その最大のアイディアが液面下シール。つまり、空気中で封をするとどうしても上の部分に空気が残ってしまう。それなら、水面下でシールすればまったく空気の入らない製品になる。
 どうしても空気が入ってしまうことを憂慮していたルーベンに妻が、「じゃ、なぜ、水中で封をしないの?」とアドバイスをしたのがきっかけだそうだ。「そんなことできるわけないじゃないか」というルーベンに妻エリザベスは「やってみなければ、わからないじゃないの」。そして、やってみたらできたというわけだ。持つべきものは、賢い妻ですね。やっぱり。

 機械本体はリースにして、紙の材料をリールで販売するという商売方法も功を奏した。創立から半世紀で世界60カ国で特許が登録され世界市場の50パーセントのマーケットシェアを誇っている。

 テトラバックの歴史を見ると、すごいなと思うことがいくつかある。まず、創業者のルーベンは、長引く開発研究で資金が底をついたとき、今まで上手く行っていた包装会社を売って資金を調達したのである。つまり、それまでの人生で培っていたものをすべて投げ打って、新製品にかけたのだ。幸運にも晩年にはテトラパックが軌道に乗ったのを確認して息をひきとることができたのだが。しかし、前述の妻エリザベスは本当の成功を見ることなく癌で亡くなった。そのためにルーベンが後に、癌基金を起こしたのも有名な話である。

 この、長期スパンの考え方は世界戦略でも息づいていて、例えば、1965年に日本テトラパックができたのだが、最初の受注はなんと、6〜7年後。利益を計上したのは、17年後なのだ。うまくいかないとなると、さっさと撤退してしまう傾向の強い外資系企業にしては、驚くべき忍耐強さだ。

 さて、ルーベンの死後、ふたりの息子のハンスとゴットが後を継いだ。テトラパックは現在にいたるまで、オーナーカンパニーなのだ。会社は成長を続け、ふたりは大金持ちになった。ところが、スウェーデンの税金はご存知のように高い。「ピッピ」で有名なアストリッド・リンドグレーンは数年前税金120%を課せられ、記者会見をしてその愚かさを訴えたとか。そして、ハンスはスウェーデンからイギリスへと移住した。イギリスでも申告所得は女王陛下を抜いて、イギリス1位だったというから、いかにお金持ちかわかるだろう。ハンスのイギリス移住は当時激しい世論を巻き起こしたのだそうだ。

 そのハンスも近年、経営から手をひいてゴットひとりの経営になっていたのだが、この1月ゴット・ラウジングも他界した。ルンドにある本社では、その頃社屋前の国旗をすべて半旗にして、経営者の死を悼んだ。

 ルンドの本社前の通りは創業者の名前をとってルーベン・ラウジング通りと名づけられている。

 というわけで、スウェーデンでは超有名なこの会社も、日本では製品の流通ほど有名ではないらしい。先日、日本テトラパックに勤めている知人がぼやいていた。
「領収書はテトラパックでお願いしますといったのに。後で見てみたらテトラポット様と書かれていた」

 そりゃ、海岸の波よけです。

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