| 夏至祭 |
カレンダーでは6月21日が夏至だ。でも、今年のスウェーデンのカレンダーでは、6月24日が夏至の祝日になっている。 夏至祭を盛大に祝うために、夏至に一番近い週末が祝日と決まっているからだ。冬の長い国民の太陽に対する思い入れは、多分日本人の想像を超えている。なにしろ、太陽がでていれば、多少肌寒くたって、日光浴をしている。啓蟄とともに芝生の上には、スウェーデン人たちが沸いてでてくる。 ましてや、いちばん日照時間の長い夏至を祝わないでなるものか。 スカンジナビア以外のヨーロッパの国では、夏至を特別に祝う習慣はないようだ。少なくともイギリスでは、なかった。 さて、そのいかにもスカンジナビア。の、夏至祭とはどんなものか。 夏至の祝日の前日(金曜日)から、多くのお店や会社は休みになる。なにしろ、盛大なパーティーを催すのが普通だからだ。 地域の広場には、メイポール(maysta。ng)が立てられる。メイポールの風習は、輸入のようだ。他のヨーロッパの国でも、春を迎えて、メイポールの周りで踊る。もちろん5月(メイ)に。ところが、スウェーデンでは、5月だとまだ花が咲ききらない。そこで、夏至祭と一緒になった。 金曜日の午前中、主催の人達がメイポールを作る。これは、白樺の葉っぱを満遍なく巻きつけた十字架の両脇にひとつづつ輪をつけた独特の形をしている。白樺の葉の中には、いろいろな花も飾り付けられる。集いの中心になるだけに、高さ数メートルのかなり大きなものだ。作るのもたいへんだが、立てるのも大変。 午後一時ごろになると、近所の人達が集まってくる。それぞれピクニックシートやお弁当飲み物を持って、日本の花見のようである。女の子達は、頭に花で作った冠をかぶっている。これも、その日の午前中に手作りで作られたものだ。 メイポールの周りには、まず、子供達が呼び集められる。そして、夏の歌を何曲が歌う。そのうちの何曲かは、ん、聞いたことがあるぞと思ったら、クリスマスにも歌っていた。歌詞の内容を、「雪の上に」から「草の上に」などと替えて一年中使うようである。省エネ。 スウェーデン人は歌う事が好きだ。歌も上手い。これだけ、小さなうちから歌う事に慣れ親しんでいると、上手いのもうなづける。 なにしろ、パーティの席ではまず歌詞カードを渡される。そして、談笑の最中に、突然、主催者が、「じゃ、○○の歌、いきます」と声をかける。すると、一同、話をやめて、やおら、全員で、歌い始めるのだ。歌い終わると「スコール(カンパイ)」と叫んで、アクアビット(焼酎)を飲み干す。 また、しばらく談笑すると、主催者が「じゃ、次、○○の歌」と声をかける。会話中断。元気に歌う。「スコール!」飲み干す。会話、再開…・これを繰り返す。いやあ、見事なもんです。 さて、話をメイポールにもどそう。子供達の夏の歌で始まったこの集いは、つぎはダンスになる。いわゆるフォークダンスですね。それぞれの歌に振り付けがついていて、歌詞のわからないうちの娘は、周囲のまねをしながら踊るので、ワンテンポづつ遅れているのもご愛嬌。なにしろ、かえるのまねをしたり、洗濯をしたり、アイロンをかけたり、なかなか忙しいダンスなのだ。見ていてもあきない。 どこかで、見た風景と思ったら、そうそう日本の盆踊りだ。やぐらのかわりにメイポールを想像していただけると、おおよその雰囲気は掴めるだろう。ただし、こっちは、昼日中です。 さて、小一時間も踊ると、しばしの休憩をはさんで、次はゲーム。これがまた良いんです。素朴で。 呼び集められた子供達が二手に分かれて、前に立つおじさんを回って帰ってくるというシンプルリレー。南京袋に両足をいれて、ピョンピョンと跳びながらおじさんを回るリレー。そして、つなひき。 どこかで、見た風景と思ったら、そうそう日本の地域の運動会。賞品がやたら生活臭のある、タッパーとかラーメンとかスポンジとかくれるやつ。都会の人はご存知ないでしょうが。ただし、こっちは、なんの賞品もありません。 賞品も表彰もなにもないゲームに、いかにも楽しそうに参加している人々を見ていると、文字通り心が洗われます。だって、ほんとうに、楽しむためにだけ参加しているんですよ。なんて、純粋で、素朴で、良い人たちなんだろう。 日本にいた時、地域の運動会を盛り上げるために、参加者を強制的に自治会の班毎に数名決めなくてはならなかった。けっこうな景品がでるにも関わらず、いつも、無理やり誰かにお願いするという状況だったっけ。 そして、最後は、締めのダンス。二時間ぐらいで終了。 でも、これは、夏至祭の導入なのだ。これから、人々は、家に帰って、我が家の夏至祭が始まる。 夏至の料理は伝統的なものだ。酢漬けのにしん(シル)でしょ。ゆでたジャガイモでしょ。そして、じゃがいもの焼酎シュナップスでしょ…。あれっ?クリスマスと同じだ。 そうです、この国では、ニシンとじゃがいもはパーティ料理、そして、普段の料理。つまり、一年中同じモノを食べているわけです。もっとも、クリスマスには、これに豚料理が加わるし、夏至には、いまがさかりのいちごにホイップクリームが欠かせません。 今年は、知人のスウェーデン人の家族夏至祭に呼んでもらった。昨年は、家族夏至祭というより友達(しかも多国籍)の集まりだったので、食べ物以外は、そんなに伝統的というわけではなかった。ということが今回わかった。 なにしろ、スウェーデンどっぷりの夏至祭では、なんと家でもダンスを踊っちゃうのだ。 食事が一通り終わったからと言って、だれも帰らない。夜食にはバーベキューを用意してある。「おなかを減らすために」とその家の女主人。そして、全員で庭で輪になって、さっきも見たジェスチャーたっぷりのダンスをうたいながら踊るのだ。 念のため書いておくが、この日の集いは、こどもは3人だけ。ほどんど大人。しかも、平均年齢50歳ぐらいの、かなり高齢な集まり。 すわっていたら、しかつめらしい恐そうなおじさんまで、いっしょに、 「ラン、ラン、ラン、ラン(ごめん。歌詞の意味が理解できていない)洗濯をしましょ」(で、洗濯のジェスチャー)。 「ラン、ラン、ラン、ラン、干しましょう」(で、干すジェスチャー) 「ラン、ラン、ラン、ラン、アイロンをかけましょう」(ジェスチャー) 「ラン、ラン、ラン、ラン、たたみましょう」(ジェスチャー) を踊るのだ。しかも、ニコリともしないで。 日本人でりっぱに成人しているわたしには、ちょっと恥ずかしかったね。一番恥ずかしがって、逃げたがっていたのは、なんと、日本人の未成年14歳の息子だった。息子よ、君の感性は正しい。でも、ここは、スウェーデンなのだ。郷にいれば、郷にしたがえ。踊るんだ!! 言い忘れたが、正しい夏至のお祭は、当然、庭でやる。そりゃ、そうでしょ。太陽を喜ぶ日なのだから。 というわけで、ダンスのあとも、バーベキューも含めて、ずっと、庭にいつづけることになる。そのうちに、明るいとはいえ、気温は下がってくる。しかも、今年は、時々、雨がふったり、日が照ったり曇ったりという典型的なスウェーデン日和。 午後7時を回ると冷え込む。すると女主人が尋ねる。 「わたしは、快適だけど、だれか寒い?」 数人が、「ちょっと寒いね」と、遠慮がちに申し出る。 「じゃあ…」の後に、家の中にはいろうか…というセリフを期待するのは、日本人。 「なにか、着る物もってくるわ」 女主人は、カーディガンを持ってきて配る。 午後9時をまわるとさらに冷え込む。尋ねる女主人。 「わたしは、ちょっと冷えてきたけど、みんなはどう?」 数人が、「少し、冷えてきたね」と答える。 「じゃあ…」そして、こんどは、毛布を持ってきて配る。 11時近くになっても、外はまだ、明るい。が、寒い。尋ねる女主人。 「かなり、寒いよね」 そして……毛皮のコート……を持ってきた。 そこまでしても、太陽を楽しみたいか!!!脱帽!!!! というわけで、我が家が帰宅した12時(真夜中)には、まだ、だれも室内に入らず、当然、だれも寝なかった。 話によると、そのまま午前3時まで起きていて、日の出をむかえるのだそうだ。それから、かつては、近くの湖まで皆で歩いて行って、はだかで、湖で泳いだのだそうだ。 わたしは、スウェーデン人にはなれそうもない。だって、水温20度以下だよ。朝の3時の湖。 さて、スウェーデンに来た頃、「夏至祭は、人によってはクリスマスより盛大だ」と言っていた人がいたのを思い出した。それが、とても納得できた体験だった。 静かに祝うクリスマスと対照的に夏至祭は「ばかさわぎ」をする日なのだ。 わたし達が、12時過ぎに我が家に向かう途中も、まだ、あちこちの家の庭から、大声で歌う声が聞こえていた。 ところで、未婚の女性の読者のためにスウェーデンの言い伝えをひとつ。 夏至の前の晩に、枕の下に7種類(地域によっては9種類)の草花を入れておく。すると、夢の中で将来の夫に会う事ができる。7種類の草は、デージー、やぐるまぎく、ポピーなどは欠かせないようだが、特定の7種類だと集めるのが困難な地域もあるので、別に、なんでもいいそうだ。 ただし、摘む間、だれとも口をきいてはいけないし、枕の下に入れて寝るということを誰かに話してもいけない。すべて、密かにおこなうべし。 スウェーデンの女の子の多くは、一度ぐらいは実行したことがあるという。でも、今のところ、現在の夫をその時に、夢で見ていたという人にあったことはない。
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