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2000/8/26                  44号


喜怒哀楽

ただいまのテーマ

ザリガニパーティー

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 8月の第1週、スウェーデンのザリガニ漁は解禁になる。このあと、わずか三週間だけ、ザリガニを獲っていいのだ。

 ザリガニって?そう、あのザリガニである。スウェーデンではkra:ftaという。
 もちろん、外国産の冷凍物なら一年中スーパーで購入する事ができる。しかし、スウェーデン人は、ザリガニの解禁になると、それを祝って「ザリガニパーティ」を開く。

 ザリガニはディルと一緒に塩茹でにする。それを、小山に盛り上げる。ナイフとフォークで食事をするスウェーデン人が、手掴みで食べて良いのは、このザリガニとイースターの頃のセムラというお菓子だけなのだそうだ。

 れっきとした?ザリガニパーティは紙の満月を飾る。そして、テーブルクロスから、ナプキンまで、ザリガニ柄で統一する。パーティを演出する為のザリガニ柄のグッズが店頭に並ぶ。頭に紙の帽子をかぶって、胸の前には、焼肉屋でだされるような、よだれかけ的紙エプロンをして、さあ準備万端。
 手掴みでザリガニを割って、チューチューと味噌を吸い、身を食べるのだ。ザリガニって、ご存知?食べるところは、尻尾の部分の身だけ。だから、たちまち殻が、山盛りになる。

 日本では夏休み真っ盛りのこの時期。スウェーデンでは、すでに夏の終わりである。そして、人々は、終わりゆく、夏の最後を味わうように、陽気な儀式のようにザリガニを食べる。シャイで行儀の良いスウェーデン人のイメージが一新するようなパーティだ。

 なぜ、ザリガニを食べる事が、こんな盛大な儀式になったか?

 お役所がザリガニ漁を禁止したからだ。
スウェーデンのザリガニは、おいしいということで、ヨーロッパの他の国々の高級レストランの食材として、輸出されていた。ザリガニは、スウェーデンでは庶民の食べ物ではなく、少し高級な食材だったようだ。というより、中産階級の物好きの食べ物だったらしい。ところが、輸出向けの乱獲がたたって、スウェーデンのザリガニは絶滅の危機に瀕する。
 そこで、政府は、夏の特定の期間(たった一日だけだった時もあるのだそうだ)をのぞいて、ザリガニ漁を禁止した。
 ね。禁止すると、食べたくなるのが人の常。というわけで、解禁日になると、いままで食べなかった一般の人まで、解禁を祝って盛大に食べるようになった。というわけで、スウェーデンのむかしからの伝統的な行事というわけではない。

 さて、昨年、スウェーデン人にすすめられて、スーパーの冷凍ザリガニを茹でて食べた。生臭かった。結局、家族は、一匹づつ食べただけで、残りは、買ってきた夫が責任をとって食べた。

 それ以来、食べようなどという恐ろしい気持ちには、なれず、一年が過ぎた。

 ところが、今年、スウェーデン人の知人に、ザリガニ漁に誘われた。ルンドでは、自治体が管理している池をザリガニ漁に解禁する。シーズン中のたった二回の金曜日だけ。
 食べるのはともかく、ザリガニ漁は面白そう。早速、予約をしてもらった。聞けば、国産ザリガニは、冷凍外国産より数段おいしいらしい。

 初回はすでに、予約でいっぱい。二回目が、かろうじてとれた。やったーぁ。
さらに、直前に、キャンセルがでたということで、初回も参加できるという連絡が入った。

 予約をしてくれたスウェーデン人の家族と共に、ザリガニ漁にのぞむ。時間は5時から夜中の1時まで。冷えるから、温かい格好で来い。という。さらに、夕食と懐中電灯は必携、蚊がすごいだろうから、蚊よけも、椅子と毛布もいるね…。
 なんだか、すごいことらしい。
「え、ザリガニをとるのに、夜中の一時まで?我が家は、そこそこで帰ろうね」
ということで、合意して出かける。

 受付に行って、名前をいうと、場所を指定される。この場所が、重要なのだ。
 カニ獲りのように、筒型になった網の中央に鮭の頭や鰯の開きを仕掛ける。それを、池に投げこむ。しばらくして、引き上げると、餌につられて網の中に入りこんだザリガニが、網から出られずに捕らえられている……ただし、運が良ければ。
 引き上げるたびに数匹ザリガニの入っている場所もあれば、虚しく水藻だけが、からんでいる場所もある。

 我々の場所は、平均的。「あ、入っていた」「あ、空だった」と一喜一憂しながら、網をあげる。知人の用意してくれた網は5個。それらを順番にあげたり投げたり。その合間に、バーベキューの用意をする。
 周囲のスウェーデン人たちもそれぞれ、野外宴会の仕度をしている。

 なるほど。ザリガニが好きで釣りにくるんじゃなくて、ザリガニ釣りというイベントを家族で楽しむ為にくるのかあ。

 だんだん日が暮れてくるなかで、わいわいと騒ぎながら、ルンド郊外の池のまわりには数十家族が、ザリガニを話題に残り少ない夏の夜を楽しむ。見知らぬ隣近所のグループを回っては、お互いの収獲を確認しあったりする。引き上げた網の中に8匹も入っていたときは、周囲のグループの人まで、一緒に喚声をあげてくれる。取材に来ていた、地方新聞の記者まで、駆け寄ってくる。なんとも、素朴で、楽しい時間。

 日が暮れると、それぞれ、野外用のろうそくをともす。池の周囲がろうそくの点々とした明かりでみたされて、きれい。
 この池は普段は、管理釣り場で虹鱒がつれる。それなのに、外灯はひとつもない。日没一時間もすると、完全な闇になる。
 でも、だれも帰ろうとしないで、ろうそくのあかりのなかで、じっと、闇の中の網に目をこらすのだ。

 この頃、少し、スウェーデン人の楽しみ方がわかってきた。刺激が少ない退屈な国であることは、事実だが、季節ごとの行事に、積極的に関わって、自らを楽しくすることができる。
 今の日本人のどれだけが、闇夜の中で、ただザリガニを釣るだけで、夕方5時から夜中の1時まで、楽しめるだろうか。すぐに飽きて「つまんな〜い」「べつに〜」としらけた様子になってしまう若者たち、闇夜で一緒にザリガニとろうよ。楽しむ気さえあれば、8時間があっという間にたってしまうよ。
 そこそこで、帰ろうね、なんて言ってた我が家も、気がついたら12時過ぎだった。もしかして、感性が、すでにスウェーデン人になってしまったのだろうか。ちょっと、こわい。

 特筆しておきたいことがある。実は、このザリガニ漁、禁漁期間を作ったあとも、絶滅の危機に瀕したことがある。ザリガニの伝染病にやられたのだ。そのため、今いるザリガニはアメリカから輸入したものが主流のようだ。つまり、アメリカザリガニね。
 わたしは、こどものころ煮干に糸をつけて、観音様の池で釣りました。もちろん食べませんでしたが。皆さんはいかが?
 あ、特筆したいのは、そのことではない。その伝染病以来、スウェーデン人は、水質の汚染にすごく気を配るようになった。餌の、鮭やニシンから菌が繁殖しないように、餌は必ず一晩冷凍してから、使うのだ。
 冷凍しても死なない菌もありそうだが、それでも、人々がそういう細かいところまで気を配ってザリガニ釣りを楽しんでいるというのは、心温まる。

 「来週も来るから」とその日の収獲(50匹ぐらいかな)は、世話してくれたスウェーデン人の友達に持ちかえってもらった。

 そして、翌週。今度は、すべて自分達で準備して、再挑戦。

 どう考えても好物になっているとは思えないので、獲ったザリガニの行方を先に考えておかなくてはならない。何人かのスウェーデン人に、貰ってもらえる約束をして、一安心。

 餌の鮭の頭を魚屋で売ってもらうことができなかったため、豪華な切り身で代用。鰯と合わせて餌代250クローネ。それに、場所代250クローネ。

 そして……数時間の格闘の末……われらが網にかかったのは……わずか2匹だけだった。
一匹250クローネ(約3000円)の貴重な、国産ザリガニ。ロブスターなみ。ところが、そのザリガニも、「家の中に入れると臭いかも」と、ふだん使わない気をつかった息子が、バケツごと外に出しておいたおかげで、朝になったら、近所の猫のえさになってしまっていた。

 あ〜、幻の国産ザリガニ。

 貰ってもらう約束をしたスウェーデン人たちには、いまだに、連絡をとれずにいる。
なべに塩とディルを入れて準備して待っていたらどうしよう。
 
 それに、あれ以来、近所の猫を見る目が険しくなってしまった私。
 

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