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2000/10/6                  50号


喜怒哀楽

ただいまのテーマ

あなたの問題、わたしの問題

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 「何のことじゃい」とお思いの方も多いだろう。今回のテーマ。
なんのことはない「It's your problem」「It's my problem」を日本語に直訳しただけだ。

 ヨーロッパ人と接していると、この言葉をよく聞く。
わたしは、密かに、これは、ヨーロッパ人を理解するキーワードだと思っている。

 個人主義の国々では、ものの価値判断が、それが、自分の問題か、そうでないかが重要なポイントとなる。自分の問題なら、それは、解決しなくてはならないが、そうでなければ、それを考えて解決する人は別にいるはずなのだ。

 例えば、日本では、凶悪犯罪などが起こると、ましてやそれが未成年であったりすると、取材の矛先や、人々の関心が、親にも向くことが多い。
 かつて、イギリスで似たような事件があったとき、親がインタビューに応じて、
「犯罪を犯したのは、息子です。これは、息子の問題。親の生活にまで踏みこむのはやめて欲しい」というようなコメントをだした。

 世論も大半が、それを支持した。

 日本では、自分の問題と他人の問題の区別がつきにくい。同僚の失敗でも、一緒に心配したり、カバーしようと協力したりする。ましてや、家族の一人になにかあれば、それは、そのまま家族の問題となる。

 以前、日本でイギリス人の一家と一緒に開館したばかりの着物の美術館を見学にいったことがある。
 ところが、ちょうどその時、開館を取材に来たテレビ局の一団と一緒になった。

 キャスターのお姉さんが、展示品の前ににっこり立って、館長を横にして
「こちらが、この度開館した○○美術館の○○館長です」などとカメラに向かって説明している。

 客は、数組。我が家をはじめ日本人の客は、話をするのに、ひそひそ声に切り替えた。
そして、テレビ撮影の邪魔にならない場所に自然と移動した。

 ところが、イギリス人一家は、話し声も普通のまま。見たい順に悠々と見ている。さらに、見学に飽きた子供達が、ちょっと大きめの声で話し、ちょっとうるさめにちょろちょろ動く。

 わたしは、自分の子供を呼んで、「少し静かにしなさい。いま、テレビ撮影をしているから」と注意した。
 すると、イギリス人夫妻は、きっぱりとこういった。
「It's not our problem. It's their problem.」(われわれの問題じゃないでしょ。それは、彼らのもんだいでしょ)

 つまり、撮影したいのは彼らであって、彼らが、静かに撮影したいのなら、人のいない時間に撮影すれば良い。見学料をはらって見ている見学者に協力を強制することは、できないはず、というのである。

 さて、先日、日本からの知人がストックホルムで結婚式をあげた。式に参列する事はできなかったが、せめて気持ちだけでもとルンドの花屋からホテルへ花を贈った。
 なれない日本名だし、その時、ちょっといやな予感がしたのよね。
 それで、帰国を見計らって、花が届いたかどうかメールで聞いてみた。

 案の定、花は届いていなかった。せっかくの気持ちが届かなかったという精神的なショックについては、とりあえず、今回は横に置いておこう。

 翌日、早速、注文した花屋に行って、尋ねてみた。
「この間注文した花、届かなかったんだけど」
幸いな事に、日本人の注文だったので、記憶にしっかり残っていてくれた。
「じゃ、伝票を探してみる」
といって探す事30分。見つからない。
「ちょっと、時間がかかりそうだから、一時間後に戻ってきてくれない」と店主。
客に、戻って来いとリクエストするところが、いかにもスウェーデン流。

 一時間後。戻る。
「あ、伝票はあったよ。ほら。ちゃんと、ストックホルムの花屋に注文だしてるでしょ」と自慢気に見せる。
「ストックホルムでは、何て言ってましたか」とわたし。
「まだ、聞いてない。じゃ、今から電話してみるね」

 あのね、わたしは一時間も待ったのよ。伝票を見つけたら、普通は問い合わせをするでしょ。という言葉を、スウェーデン語に訳せないので、じっとおとなしく待つ。

 おじさん、ちゃんと電話してくれた。
「折り返し、電話くれるって言っているから、ここで待ってて」
 いやな予感はした。店の奥のオフィスコーナーの書類とごみのたまった一角で座って待たされること30分。いやな予感は当たった。電話はない。

「今日、これ以上待てないから、帰ります」
 日本なら、こう言う展開になれば、それでは、ストックホルムから連絡がありしだい、お電話します…などという提案が、おじさんからなされるはず。
 でも、スウェーデンに一年以上暮らしていると、そういう甘い考えは持たなくなっている。
「じゃ、明日、また寄ります」念の為、もう一度確認しておくが、客はわたしよ。

 すると、おじさんはこう言った。
「あ、あしたから、ストックホルムに出張だから、来るなら4日後にして」
 他に、店員もいる結構大きな店なのだが、担当者を他の人にするという発想は、スウェーデンにはない。

 客はわたしだ…と日本語でつぶやきながら、店をでる。ほとんど、くじけそうになっているが、届かなかった花に300クローネ払うのは、やはりいまいましい。

 念の為一週間あけて、再び店へ。
おじさん、わたしの顔を見るなり、あわてて電話に飛びついた。そして、しばらくしてこう言った。
「困った事になった。ストックホルムの担当者が、休みで、来週まで出てこない」
 嗚呼、スウェーデン!!

 そこで、すっかりヨーロッパ慣れしたわたしは、おもむろにこう提案した。
「いいでしょう。わたしは、お金を払った。しかし花は届かなかった。どう考えてもこれは、わたしの問題ではない。わたしに300クローネ返してください。そして、あとは、あなたが、向こうの花屋から、お金を回収してください」

 わたしに300クローネ渡しながら、おじさんは、こう言った。

「さあ、これで、問題はわたしのものになってしまったぞ」




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