| ラゴム(lagom) |
バイキングは、休憩の時、角盃に飲み物を満たして、回し飲みした。最初の人がたくさん飲むと、後の順番の人の分がなくなる。そこで、全体の分量を考えながら飲まなくてはならない。それが、ラゴム(laget om)の精神である。 ほどほどにとか、適当にとか、周りの事を考えて……といった意味だ。 スウェーデンでは、このラゴムの精神が、すごく大切である。わたしの印象だと、これが、スウェーデン人の中核をなす考え方ではないかと思えるぐらいである。 ラゴムの精神があるので、スウェーデン人は、めったに大声で喧嘩をしない。道でも、店でも、言い争っているのを聞く事は、ほとんど無い。滞在一年半で、一度だけ、祭の場所で、酔っ払いが危うく殴り合いの喧嘩になりそうなのを見ただけだ。それも、周囲の人がすぐ止めた。 大声で喧嘩をしながら歩いているのは、我が家ぐらいだ。とほほ。 その結果、「それは、できません」「間に合いません」と言いきらないかわりに、何度訪れても「後、2週間ぐらい」「もうじききます」というほどほどの返事を繰り返されるのだ。 会社でも、ラゴムの精神があるので、断定的な決断というものをしない。 「いいから、黙ってやれ」などというのは、ラゴムの精神に反するのだ。 しかし、このラゴムの精神、外国人には、およそわかりにくい。 例えば、こういう話し合いがあったとする。 「今度の製品は、白にしようか」 「そうだね。白はきれいでいいね。でも、黒もインパクトがあるよ」 「赤も青もいいけど、やっぱり、黒か白かなあ」 「白は汚れがめだつかもしれないね」 「予算的にはどうなんだろう」 「赤は、安いけど、後は、みんな同じ値段だね」 「そういえば、この間の製品は、赤だったけど、ちょっと下品だったしね」 「じゃ、そういうことで」 日本人の感覚からいくと、最後に多数決なりなんなりで、結論をだして、決定ということになる。少なくとも、最後に決定事項の確認をする。 ところが、スウェーデンでは、これで、話し合いは終わっている。色が決まっていないと思うのは、外国人だけである。スウェーデン人の中では、すでに、色は、黒に決定している。話の途中で、ラゴム精神のなせるわざで、同意がなされているのである。 たぶん「白は汚れが目立つかもしれないね」あたりで、「じゃ、黒に決定ね」という同意がなされているのだ。 ラゴム精神によると、あからさまに、相手の反対意見は言わない。強引に自分の意見を通そうとしない。ほどほどのところで、妥協して行く。 その結果、スウェーデンの政治は、大きく左右にふれることなく、ラゴム精神で、バランスをとりながら、進んできた。 ラゴム精神は、例えば、食事に呼ばれた時にも発揮される。 周りの人のことを、考えてほどほどにした結果、いつも、どの大皿にも一口ほど料理が残る。マクミランランゲージハウスから出版されている「スウェーデン人のまっかなホント」と言う本に、おもしろいエピソードが書かれている。 とてもおいしそうな肉団子が最後のひとつだけ、例によって皿に残っていた。夫人が客たちにすすめたが、例によって、みんなが遠慮した。その時、ヒューズがとんで、ダイニングルームが真っ暗になった。一瞬の沈黙の後、ぞっとするような悲鳴があがった。 一人の客のフォークが肉団子をつきさしていて、残りの5人の客のフォークが、その客の腕をつきさしていたのである。 ラゴム精神というのは、ことほどさように、重要なのである。 というわけで、わたしも招待客が料理を大量に残しても、わたしの料理がまずかったのではなく、ラゴム精神を多いに発揮した結果だろうと思うことにしている。 ただし、このラゴム精神、通用するのはスウェーデン国内に限るらしくて、デンマークに行くと、ラゴム精神を忘れて、浴びるほど酒を飲んだスウェーデン人の酔っ払いにたくさんお目にかかることができる。 |
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