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2000/11/25                  57号


喜怒哀楽

ただいまのテーマ

雨に関する私的考察

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   ヨーロッパで走っているのは、日本人と泥棒だけ。という表現がある。そして、もうひとつ、ヨーロッパで傘をさしているのは、日本人だけ。

 わたしの暮らした外国は、イギリスとスウェーデン。そして、その両国とも天気があまりよくない。詳しいデーターを調べたわけではないので、一年のうちの雨の降った日がどのくらいかわからないが、生活感覚としては、5割を超えているかもしれない。

 最初、イギリスに住んだ時、イギリス人が、傘をささないのに驚いた。さらに、イギリス人は雨宿りもほとんどしない。
 よく絵でみるような、傘を持ったイギリス紳士、多分あの立派な傘は一生の内一度もひらかれないのではないだろうか。

 さて、スウェーデンの天気も変わりやすい。
 母が日本から遊びに来ていた日、朝から快晴だった。母には乾燥機で衣服を乾かすなどという発想は、みじんもない。当然、庭に張ったロープにせっせと洗濯物をつるし始めた。
 しかし、わたしは止めた。これから、観光にでかけるのに、外に洗濯物を干して行くなんて…。
 快晴の青空を見ながら、母が言う。
「大丈夫。外に干して行けば帰るまでに乾くよ」
「スウェーデンの天気を信用してはいけない」とわたし。
 納得のいかない母。しかし、しぶしぶ取り込む。でも、わたしの母である。観光に出かけても、空を見上げては、
「やっぱり、干してこればよかった」
と、しつこい。
 そして、数時間後、やっぱり雨は降った。
 雨をみて、そして、わたしを見て、母は感心したように言った。
「ほんとだね。あんなにいいお天気だったのにねえ」
 わたしは、誇らしく、胸を張った。

 と、まあ、そんなことで、威張っていてもしょうがないのだ。ともかく、こんな天気だから、「雨天順延」という言葉がない。順延したら、いつ実行できるかわからないのだ。
 知人のはじめての保育園の遠足の日は雨だった。当然中止だろうと、通常通り登園。
すると、全員、遠足の用意ができている。
「えっ、遠足に行くんですか」と聞くと、担任、平然とした顔で
「あら、昨日、そうやって、伝えなかったかしら」

 昨年のルンド大のキノコ狩りは、やはりかなりの雨だったそうだ。バスで現地まで行く。止まない雨。当然、お弁当はバスの中で食べると思ったら、バスは、次の送迎があるとかで、全員を雨の森に降ろして、無常にも帰って行ってしまった。
 雨になれない日本人参加者は、なるべく枝の張った木を見つけて、雨宿りをしながら、ずぶぬれで、たったまま、お弁当を食べたのだそうだ。そして、ひたすら、祈るような気持ちで迎えのバスを待ったのだった。

 今年の夏は、あまり天気の良い夏ではなかった。
 我が家は、ダーラナ地方でサマーハウスを借りて2週間過ごしたのだが、快晴でしかも水泳日和という日がなかなかない。せっかく、シリアン湖の目の前に滞在しながら、湖で泳ぐ事ができない。
 一度、無謀にもちょっとお天気の良い日に入ったら、水温17度。すでにスウェーデン人化している娘以外は、すぐに退散した。

 ダーラナの目玉のひとつにサマーランドというのがある。プールを中心とした遊園地で、乗馬やつりなどの屋外アトラクションもある。
 子供達は当初から楽しみにしていた。
 しかし、入場料は高い。十分楽しむためには、やはり気温の高い快晴の日に利用したい。というわけで、最適な日を待っていたらとうとう最終日になってしまった。
 そして、雨である。

「こんな日にサマーランドに行っても仕方ないでしょう。今回、サマーランドはあきらめよう」
 しかし、2週間、今日か今日かと待っていた娘には、どうしても納得できない。
「だって、こんな雨の日に泳いだら、風邪ひいちゃうよ。それに、もしかしたら、サマーランドもこんな天気じゃ、休園かもしれない。行ったって、だれもいないよ」
 でも、わたしの娘である。
「どうしても行きたい」
と、しつこい。

 「じゃ、行くだけ行くけど、だれもいなかったら入らないからね」
あきらめさせるために、サマーランドまで、いってみる。かなりの雨である。気温は17度。屋外遊園地、しかも、プール中心の遊園地に人がいるわけがない…。

 ところが、……駐車場は満車。園内からは、キャーキャーと元気な声が。
 我が目を疑ったね。
「ほらね。みんな、あそんでるじゃん」誇らしげな娘。
 雨に濡れるのもプールで濡れるのも、スウェーデン人にとっては同じなのだ。どうせ濡れるんだったら、今日はプールにしよう…ということなのか。

 しかし、日本人の常識として、こんな気温の低い、雨の日に、高いお金を出してプール中心の遊園地に入るわけにはいかない。日本人としてのアイデンティティに関わる。(いえね、ただ、もったいなかっただけですが)
 「うそつきぃ」と叫ぶ娘をなだめすかして、あきらめさせる。

 先週、ご紹介した、ピッピランド。あそこに行った時も雨模様だった。目玉のピッピの野外劇が始まった時はすでにかなりの雨脚。ステージはさすがに屋根がついているものの、観客席は完全に空の下。丸太の上に板を渡してある座席もずぶ濡れである。
 多くのスウェーデン人たちは、平気で、ずぶ濡れのうえに腰をおろす。
 我々日本人は、持っているシートをひいて、腰をおろす。
 すると、後からきた賢いスウェーデン人たちは、渡してある板を両脇を持って持ち上げるとくるっと裏に返して、ぬれていない側を上にして、座っていた。偉い!!

 客席の方にしょっちゅう降りてくる役者もずぶ濡れ。座っている観客もずぶ濡れ。スウェーデン人の高い鼻の頭からは、水滴が滴り落ちている。
 しかし、だれも、席を立とうとしない。それは、もう、驚嘆の域に達していますね。
 さすがにこの時は、傘をさしている人もちらほらいたが、大勢は、平気で濡れている。我が家も、誰も席を立たないので、日本人の意地を見せねばと、かなり頑張った。
 その結果、全員で、車に戻って、乾いた服に着替えたのだった。

 「郷に入って、郷に従おう」とすることは、ことほどさように、努力を要することなのだ。

 スウェーデンのどんなアパートにも乾燥機がついていることを、贅沢と言ってはいけない。
 スウェーデン人が、外出する時、けっして、きれいな格好をしていないからといって、おしゃれではないと言ってはいけない。
 かれらは、いつだって、心の内では雨に備えて、生きているのだ。

 しかし、スウェーデンの雨は、しばらく待っていれば、多くの場合、必ず上がる。すぐ、また降ることもあるが、日本のように、ずっと、じめじめと降りつづけることはめったにない。
 というわけで、今日もスウェーデン人たちは、傘も持たずに出かけるのである。


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