2001/1/14                  62号


喜怒哀楽

ただいまのテーマ

スウェーデン人のハワイ

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 アフリカ大陸モロッコ近くの大西洋上北緯28度ぐらいのところに、カナリア諸島がある。文字通りカナリアの原産地である。ここは、スペイン領。
 テネリフェとかグランカナリアといった島の名前は、お聞きになったこともあるかもしれない。

 日本からは、かなり遠いのだが、世界で3番目の日本人学校のある島なのだそうだ。

 さて、今回「スウェーデン報」が、なぜ、スペインの話を書くか。実は、この島々、スウェーデンを初めとするスカンジナビアの国々の冬のリゾート地なのだ。

 クリスマス休暇をピークとして、スカンジナビアの人々は、太陽を求めて南の国にでかける。各旅行会社も、競ってリゾートプランを打ち出す。
 主な行き先として、真っ先にあげられるのが、カナリア諸島。そして、モロッコ、エジプト。どこもスウェーデンから飛行機で5、6時間。海岸のあるリゾート地である。

 価格は、ピーク時で、大人一人3万円から4万円。往復の交通費と1週間の宿代を含む。
ピークをはずせば、二万円代で、1週間のリゾートを楽しめる。
 出発が迫ったツアーの空きにもぐりこむ「sista minuta」(英語でいうとlate late booking)だとかなり安いものが手に入ることもある。

 我が家も、冬休みどこか太陽のあるところに行きたいと思った。そして、この「〆切りぎりぎりツアー」を探した。
 ところが、この格安ツアーは、カップルのもので、我が家のように家族だと、二人づつ別々のホテルになってしまうこともあるという。
 仕方なく、あきらめて、最も安い通常に近いツアーをもうしこんだ。通常に近いというのは、あまり安いので、現地につくまで、どの宿に泊まるか分からないと言うことだ。

 旅行会社のお姉さんが、
「で、機内食は申し込みますか?」と尋ねる。あまり安いので、機内食は有料なのだ。
「いりません」
「キャンセル保険は申し込みますか?」子供の熱などで行けなくなった場合に旅行代金が払い戻される。でなければ、1円も戻ってこない。
「いりません」
「旅行保険は申し込みますか?」
「いりません」
「ホテルの指定はしますか」
「しません」
「どの町に滞在するかだけは決めておいた方がいいんじゃないですか」
「じゃ、そうします」
「じゃ、ランサローテ島のカルメル町ね。指定料が500クローネかかります」

 かくして、我が家の格安冬休みが決定した。

 飛行機は、地元マルモの空港から。約200人乗りのチャーター便。つまり、スコーネ人だけのツアーである。この時期、毎週1便ランサローテ島まで飛ぶ。それ以外に、グランキャナリー島、テネリフェ島などにも1便づつ飛ぶ。単純にカナリア諸島だけ数えても、毎週1000人のスコーネ人が太陽を求めて旅立つのだ。
 同様にストックホルム、ヨーテボリなどその他の主だった都市からも毎週、便がある。

 機内食を断ったので、飲み物食べ物持参で飛行機に乗りこむ。なんだか、デパートの大衆食堂で、家から持ってきたお弁当を食べているようなわびしい気持ち。豪華なリゾートってのも、1回ぐらいしてみたいものだ。
 なおかつ、チャーター機は、狭い。小さい。しかも、満席。
 チェックインの遅かった我が家は、トイレ前の最悪の席。3人掛けからはずれた夫の席は、通路を挟んだ向こう側で、隣も、前も巨漢。本当にすごい巨漢なの。90キロの夫が痩せっぽちに見えたもの。

 エコノミー席症候群って、狭いところに長い時間押し込められていると、中には死ぬ人もいるという恐い病気。他人のことながら、気になってしまいました。

 さて、現地に行って見たら、驚いた。空港前に十台以上のバスが、飛行機から下りてくるツアー客を待ちうけている。それが、ほとんどスカンジナビアからなのだ。
 宿は、ホリデーアパートで、2LDK。それが200室ぐらい並んでいる。中央は、プライベートプール。そのほとんどが、スカンジナビア人だった。

 例えば、我が家の右隣はデンマークから2週間。左隣は、スウェーデンから1週間。そのむこうは、ノルウェーから。
 街中のレストランもスペイン語、英語以外に、スカンジナビア各国のメニューとドイツ語のメニューを備えている。

 なぜか。

 日光が足りないと、病気になるからだ。うつ病になって、病院で紫外線を浴びる治療を受ける人が、少なくない。

 久しぶりのからりとした青空。そして、高い太陽。強い(といっても1月なんだけどね)日差し。それら、日本人、特に太平洋側の人間、にとっては、あたりまえのものが、どんなに大事なものか。

 実のところ、スウェーデンに住んでも寒さはほとんど気にならない。屋内は半袖でもいいくらい温かいせいもある。
 こたえるのは、暗さである。朝8時に出かける時も暗く、夕方4時になると暗い。南のスコーネでもこうなのだから、北のキルナなど、太陽はなくぼんやりと明るい時間が数時間のみなんて時期もある。
 しかも、日中でも、太陽は弱々しい。雲でもでれば、すぐ、暗くなる。
 日々の元気もなくなってくる。ほんとよ。

 わたしなんか、午前中、SFIに行ってスウェーデン語の勉強をして帰ると、宿題もする気になれず、とりあえず、ひとやすみしよぉと言う気になってしまう。そうこうしているうちに、すぐ、暗くなって、子供のお迎え夕食のしたく…。なんとなく1日が過ぎる。

 ところが、スペインの明るい日差しの中。まずは、やる気がふつふつと音を立てて沸いてくる。ちょっと、スウェーデン語の勉強なんかしちゃおうかなぁ、と自然に思う。
ちょっと、町まで、ウインドゥショッピングに行ってこようかなあ、と体を動かす気になる。
 町の明るさも違う。明るい日差しの下では、食べ物がおいしい。道路に並べられたテーブルで、海をみながら飲むビールのおいしいこと。

 明日でもいいや、と思うことも、今日しておこうと言う気持ちになる。
 気のせいか、1日が長く感じられる。

 スウェーデンでの冬は、じっと春の来るのを待っている時期。できるだけ、エネルギーを使わないように、冬眠している気分。

 ああ、太陽はかくも、偉大なのだ。

 さて、表題では、スウェーデン人のハワイと書いたが、ハワイよりもっと、なにもないところである。
 人々はただ、太陽の元に、限りなく裸に近い形で寝転んで、日々、紫外線を浴びるためだけにきているのだ。

 さて一応ランサロッテ島に付いても、簡単に説明しておこう。カナリア諸島の中では比較的後で観光地化された。というのもおおきな火山の噴火によって、壊滅的な打撃を受けているからである。
 そのため、海岸端のいくつかの観光の町以外は、溶岩の大地に、ほそぼそと農業をやって暮らしている。火山灰は栄養がゆたかなのだが、乾季が長く、水不足と風害対策が大変。例えば、葡萄畑なども、まずは、下にコンクリートを流して、なるべく排水を悪くする。さらに、直径1.5メートルぐらいの穴を掘って、周囲に石で囲いをして風除けにする。それを、一本一本の苗に対してするのである。当然、収獲も機械が入れないので、手作業になる。

 そのくらい手を加えないと緑を育てることができないのだ。野生で生えているのは、こけのような草か、サボテンである。

 アイスランドもそうだったが、人間って、本当にどんな土地にも住もうとして、そこでの最大の努力を惜しまない生き物なんだと、まずは、そんな感慨で、胸がいっぱいになる。
 と、同時に、日本という国が、いかに恵まれた環境にあるかを、再認識する。

 ランサロッテの島内観光のバスツアーに1日だけ参加してみようということになった。火山見物だけは、しておきたいしね。
 で、インフォメーション等に並んでいるパンフレットを集めてきて検討してみた。
1日ツアーの平均相場が、ひとり6500ペセタ(4500円ぐらい)の中で、ひとつだけ、1500ペセタという格安ツアーがある。
 宣伝文を読むと、コーヒー紅茶ケーキ付き。お土産付き。ランチは、素敵なトロピカルなレストランで。ホテルまでの送迎あり。10時から夕方6時まで豪華バスのツアー。Timanfaya(火山のある国立公園)の入場料を含む。その他、風光明媚な島南ツアー。

 他の高いツアーは、おみやげはもちろんコーヒー紅茶等もついていない。
あやしい!!電話で、確認をする。
「はい、書いてある通り全部まわって1500ペセタです」

 よくよく読むと、「午前中、ホテルからまずは、素敵な会議室?に行って、商品につい
ての説明がある。約2時間半。それから、レストランに行って食事、そして、観光になる」と書いてある。

 どうやら、なにかを売りつけるためのツアーらしい。あぶない!!

 ところが、危ないもの好きの我が家。安いと言うだけで、それに申し込んだのだった。
だって、4人分で考えるとすごい安いでしょ。

 翌朝、言っていたとおりホテルまでバスは迎えにきた。参加者は全部で10名。我が家以外はカップルなので、家族数にして4家族。心細いぐらい少ない。
 案内役の人が、あとでもめないように再三
「このツアーはセールスツアーというのを承知してますよね」と確認する。
だまして連れて行こうという気はないらしい。
「絶対買わなくちゃいけないんですか」と質問すると、苦笑いして
「それが目的のツアーですから」とだけ答える。

 そして、別の町の、素敵とは程遠い建物の一室に連れて行かれる。万一逃げる羽目になったときの逃走経路を確認(そこまでして、参加するか??!)。
 1時間半あまり、高価な寝具についての説明を英語で受ける。こんなに一生懸命説明して、しかも4グループのうち、一組はノルウェー人、一組は日本人、後の二組がイギリス人。英語の説明を完璧にわかるのは、この二組だけ。
 説明するイギリス人の、どことなく投げやりな様子が伝わってくる。
「いつもなら20人ぐらいは最低いるんだよね。本当ならこの人数だったらキャンセルするところなんだけど」
「国立公園の入園料だけで1000ペセタもするんだよ。はっきり言って、儲けなんかまったくないツアーなのさ」
 なんて言う、泣き言も混ぜる。

 その時、テーブルには、宣伝通り、トワイニングのディーバックとコーヒーとカステラのようなケーキが置かれている。サービスとはいえ、コーヒーはまずい。でも、娘はケーキを二つも食べる。
 さらに、返事をしてくれたら、さしあげます、といって、簡単な質問をして、答えると、ワインを一本づつくれる。ああ、これが、宣伝にあったお土産ね。

 一通り説明が終わると、スタッフが各テーブルにまわって、個別折衝に入る。いよいよ、きたな。買うまで、ねばられたらどうしよう。と、身構えて応対すると、
「日本帰国の時に、もって行けないから」
と言っただけで、「あ、そう」と引き下がった。

 ね、いいの。そんなに簡単に引き下がって。周りをみると、どの組も、買ってはいない。義理でいちばん安いクリームを買った人もいたが、我が家はそれさえ買わなかった。
 こんなに売れないで、あなたたち後でボスに怒られるんじゃないの。大丈夫?生活できるの??
 あんまり恐縮したものだから、
「じゃ、観光ツアーに出発しましょう」
と言われた時、お土産のワインを忘れてきてしまった。残念。

 でもさ、6500ペセタのツアーさえ、値切ろうとしている人達が、20万円以上もする寝具セットなんて、買うわけないでしょ。普通。そもそも、狙いから、間違っているわね。
 だいたい、ツアーに参加するまで、説明される商品が何かも教えられていないのに。

 しかし、さすがヨーロッパ。宣伝に偽りアリと言われない為に、駆け足ではあったが、その後ちゃんと観光に連れて行ってくれた。
 すれ違う満席の観光バスを見ては、たった10人で大型バス一台を占有している我がツアー。スタッフはちゃんとガイドまでしてくれて…。わたしが出世したら、ダブルの寝具セット買ってあげるからね。と心の中では感謝したのだった。

 最大の目玉であるTimanfaya国立公園。地熱が熱く、それを利用してバーベキューができる。グリーンラグーンと呼ばれる風光明媚な入り江。島でいちばん美しいと言われる町。由緒あるチャペル。溶岩大地の中のワイン工場。

 勝手にスリルとうしろめたさを味わったツアー。おすすめよぉ〜。

 さて、太陽いっぱいの1週間をすごして、マルモ空港に降り立ったら、外は冬の雨。しかも夜。風強し。思わず、そのまま飛行機に乗って引き返したくなりましたね。

 あの1週間、その気になって、随分がんばったスウェーデン語の勉強も、帰国したら全くやる気になれない。日常の買物すらも億劫な日々に戻ってしまった。
 ああ、やっぱり、太陽のせいね。
 今までは、自分の怠け心のせいだと思っていたけれど……

 しかし、一生をこの暗い冬と付き合ってすごすスウェーデン人。スペイン人と違う性格になるの、むりないわ。


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