| SFIテスト伝説 |
この一年ちょっと、わたしは、毎日午前中8時から11時半まで、SFIというところに通っていた。SFIについての詳細は、バックナンバーをご参考いただくとして、簡単に説明すると、自治体が移民のために開いているスウェーデン語のクラスである。ホントに、簡単。 費用は無料、それどころか、難民には、手当てさえ支給される。教科書も1冊目は支給。マルモなど辞書まで支給。 運営は自治体に任されているが、システムはスウェーデン全国のものだ。目的は、スウェーデン語とスウェーデン社会の基礎能力をつけること。単なる語学学校ではない。 いろんな国の人とも知り合えるし、スウェーデンに関する知識は深くなるし、わたしには、とても楽しかった。でも、知人のスペイン人は、こう言っていた。 「どうも、最初は、なじめなかったのよね。SFIって、みんなをスウェーデン人にしようとしているじゃない。わたしは、スウェーデン人にはなりたくないの。スペイン人のままでいたいの」 なるほど。 上級のテキストでは、医者での応対等の実用や、スウェーデンの政党などの社会知識や、恋愛などの文化にまで言及している。 「恋人に会いに行くには、船に乗らなくてはいけないのだが、船の持ち主は、それなら、一晩彼のところに泊まれという。母親に相談したら、自分で考えなさいと言った。そこで、どうしても、恋人に会いたい彼女は泊まった。恋人に会うとそのことを恋人が怒って、もう、別れるといった。さて、いったい誰のモラルが高いか、低いか」なんていう章もあったりして。ね、楽しそうでしょ。 さて、SFIでは、5月と12月の長い休暇の前に、卒業テストがある。それにパスすると、上級の教育が受けられる資格が得られるし、職安に登録する資格もできる。 仕事を自分でみつけるには、別にSFI合格の必要はない。だから、途中で、仕事が見つかって中退した人もたくさんいる。その他の事情で、来なくなった人も多い。 SFIに通い始めた人の中で、SFIテストパスまで到達する人の率は5%とも言われている。 私の通っているルンドのSFIは、比較的教育レベルが高い人が多いので、SFI修了までの平均授業時間が、全国平均より100時間ぐらい少ない。難民の中には、母国での教育が3年未満。スウェーデン語どころか母国語も書けない人もいる。難民の多いマルモでは、受けてきた教育レベルによってクラス分けをしている。そうしないと、レベルに差がありすぎて、授業にならないのだ。 ところが、書けないからといって、しゃべれないわけではない。日常会話は、母国が通じないから、スウェーデン語を覚えざるを得なかったりして、英語の話せる国民より、ずっと早く流ちょうに話すようになる。 SFIテストに話をもどそう。 SFIテストは、AからDの4つのテストと面接で行われる。 A 筆記テスト(長文読解、文法、スウェーデンに関する知識など) B ヒアリング C 筆記テスト(おおむねAと同じだが、それに簡単なメモ程度の作文) D 作文(テーマがあたえられる) 今回私が受けたテストは、 A 子どもの体力減退についての新聞記事の読み取り、病院での会話、薬の注意書きの読み方等。 B 駅の構内放送の聞き取り、ラジオのインタビュー(なぜ、子どもを産まないか)の聞き取り、ニュースと天気予報の聞き取り C テレビ欄の見方、ビデオ録画を人に頼むメモを書く作文、テレビ視聴料の払いこみ用紙の書き方、新聞のヘッドラインの読み方 D バスで転んで腰を痛めた。それについての、苦情の手紙をバス会社に書く。 というものであった。ね、スウェーデン社会の基本的な生活を問うものでしょ。 やっていて、楽しかったし、実用的なレベルで作成されていて、なかなか良い問題だと思う。 国会議員の数とか、一番広い湖の名前とか、首相の名前のスペルとかを一生懸命覚えたのは、すべて、無駄だったけど。 さて、テスト自体は良い問題なのだが、テストのやり方には、かなり疑問が。 まず、全国一斉同じ問題なのに、実施日は自治体任せ。例えばルンドの1週間あとに、たった20キロしか離れてないマルモで実施。そりゃ、不公平でしょ。 さらに、ルンドの場合、怪しい噂も流れている。 いわく「担任に頼みこむと合格させてくれる」 そうは言っても、AからCまでの筆記テストは、合計点数が七割取れていないと、Dの作文の足きり点(12点…20点満点中)を足しても合格ラインにはならない。 点数はごまかせないと思うんだけど。 今回も私のクラスメートの半分は、残念ながら落ちた。結果発表の時、イラク人の女性は、泣きながら担任につめよった。 「あれだけ、頼んだじゃない。どうして、落としたの」 別のモロッコ人の女性は、放課後、職員室に行って 「なんとか、助けて」 とふたたび頼んでいた。 このあたり、文化の違いかなあと吃驚したのだった。 しかし、別のクラスでは、担任から落ちたといわれていた生徒が翌日は、合格者名簿に載っていたりと、たしかに、怪しい噂のたつ素材はある。 さらに、筆記テストより、怪しいのは、面接。こっちは、はっきり言って、面接官の心象が大きい。 「仕事が決まっているの。じゃ、合格」 「君は夫がスウェーデン人だから、きっと家で練習するね。合格」 それで、いいのか!! 名前しか言えなくて、面接が終わってからずっと泣いていた人も、ふたをあけたら合格だったとか、いろんな噂がたえない。 SFIを持っていない他所の自治体から送られてきている人もいる。すると、他所の自治体から授業料が入る。そのために、郊外から来ている人は、なかなか合格させてもらえない。という噂もある。 逆に、手当てを貰いつづける為に、落ちつづけるという生徒もいるとか。 う〜ん。魑魅魍魎の世界。 でもね。面接については、わたしも、なにも言えないの。 「すぐに、日本に帰るから、合格」だったのさ。 あ〜、クラスメートはみんな言っているんだろうなぁ。 「Pecoは、あんなに、しゃべれないのに、頼みこんだから合格したんだ」 ああ、また、あたらしい伝説を作ってしまった。 でも、筆記は実力よ。ほんとだってば。 悲喜こもごものSFIテスト。嵐のような日々でした。 さて、日本でも外国人が急増している。言葉がわからないための苦労というのが身にしみたわたしとしては、SFIならぬJFI(移民のための日本語クラス)の必要性をしみじみ感じる。 その場合、テストとしては 「根回しの仕方」とか「交通事故を起こした時の上手な言葉の選び方」とか「年上の人に取り入る話し方」とか、「政治家用語の正しい理解の仕方」とか、そんな実用問題がでるんだろうか。 わたしも、受けたい。 |
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