| 旅のトラブル |
トラブル1 盗難 大都市では、盗難がつきものだ。身近な知り合いでも、初日にパリで全て入っていたハンドバックを盗られ、即、帰国してしまった人、コペンハーゲンでコンピューターを盗まれた人、寝台車コンパートメントで、下段に寝ていた人のハンドバックを持って行かれた人、ナポリでスリに会った人……挙げたら、キリがない。 で、我が家も夫が被害に遭った。バルセロナ出張中に、市内繁華街を歩いていると、突然、頭をぐっと押さえつけられ、「あれ?なにがおこったんだ??」と思っている内に、お尻のポケットに入れてあった財布が、抜かれていた。 しかも、相手は3人チーム。 抜いた男が、すかさず、少し離れた仲間にパス。そして、その男が、通りの向こう側で待機している、もう一人の仲間にパス……するはず……だった。 ところが、二人目の男が、なにかにつまずいて、転んだ。「つかまえられる!」と、思った夫は、追跡モードにはいった。 倒れた男は、慌ててたちあがり、向こう側に向かって走り出す。かなり交通量のある大通りだが、交差点手前ということもあって、車は、徐行している。その、車の流れをぬって3人が逃げる。夫は追いかける。 「どろぼうっ、ヘルプ。どろぼうっ。ヘルプ」と、英語で叫びながら、追っかけるが、場所はスペイン。英語が、通じているか??例え、通じても、展開の早さに、周囲としても参加しようがない。 3人はそのまま、地下鉄につづく階段に飛び込む。追う夫。 相手は、ヨーロッパ人の若者。長い足と機敏さで、地下鉄の改札口をひらり、ひらりと飛び越えて逃げる。追う夫は、平均的日本人中年の体重と短足。ひらりとはいかず、くぐる。遅れをとりながらも、ホームまで追うと、そこにいた乗客が、黙って指差す。 見れば、3人は、地下鉄の線路の上を、次の駅に向かって全力疾走していた。闇の中に、シルエットだけが、浮かんでいる。 さすがの怒れる男、わが夫も、いつ電車がくるかわからない地下鉄の線路の上を走る気にはなれず、追跡を諦めた。 その後、警察で盗難届けを出していると、次々にやってくる東洋系旅行者。スペインでは、年間1000件以上の日本人の被害者がいるとか。無警戒な上にお金持ちと思われているんですね。 お尻のポケットに財布を、しかも、見えるように入れて無警戒に繁華街を歩いていた夫。イギリス人の友人いわく「わたしを襲って!と看板を背負いながら歩いているようなもの」。同情はできない…。が、線路の上を逃走すると言う命がけの3人組強盗。 財布の中身がスウェーデンクローナでわずか300(日本円にして4000円弱)だったのを見た時には、さぞかし、がっかりしただろう。ちょっと、同情。あそこまで深追いされた時には、きっと大金が…と、期待しながら逃げていたのだろうに。 トラブル2 迷子 今年の休暇は、知人の紹介で、フランスの田舎の小島にあるサマーハウスを借りることにした。スウェーデンからドライブすること約1500キロ。ナントの勅令(って、知ってます?)のナントについた。 島に渡る船は、ナントからさらに1時間ほどドライブした港から出る。 フランスは、昼時に開いているのは、レストランだけ。島に渡る船も、朝の便が終わると、次は、夕方。時間調整のためにナント見学をすることにした。 ついでに、ツーリストインフォメーションで情報を集めて行こう。駐車券の時間切れが迫っていた為(注 ヨーロッパの駐車場って、料金前払い制のところが多い。だから、支払った料金で表示される時間までに戻らないと、罰金をとられてしまう)、夫と息子は、車で、ツーリストインフォメーションへ。まだ、食事が終わっていない娘を待って、わたしたちは、歩いて駅のツーリストインフォメーションへ。 この判断が、後の悲劇を招いたのだった。 駅のインフォメーションで、30分待っても、夫も車もやってこなかったのだ。仕方なく、駅前の大通りが見える位置に立つ。すると、むこうから、我らが愛車が。そのまま、直進すれば、駅。娘と二人で、手を振る。 と、ところが、なぜか、車は、目前で右折して、かなたに消え去った。 わが夫、知る人ぞ知る、方向音痴。ちょっと複雑な駅への入り口が、わからなかったのだろう。でも、あそこまで、到達できれば、後、数分で戻ってくるに違いない。 ところが、なんと、ナントでは(ちょっと、寒いギャグ)、二度とその車に出会う事はなかったのだ。 3時過ぎに待ち合わせのはずが、7時になっても来ない。もう1カ所ある中心地のインフォメーションにもタクシーを飛ばして行って見た。いない。 車で通過したら10分もかかれば通りぬけられそうなナントの町。なぜ、来ない!! 車を降りて歩いて来たって20分とはかからないはず。方向音痴の夫のこと、隣町までドライブしてしまったということもありうる。それにしても3時間以上。 怒りが増してくる。隣に立つ娘は、めぐり合えない不安と母の怒りに対する不安で、情けない表情をしている。 最終の船は9時。駅で待つのを諦めて港にバスでいくことにした。 最終の船の時間は念を押して伝えてあるので、遭えないとなったら、そこに直行しているに違いない。 だいたい彼の携帯を私が持っているのだから、電話の一本ぐらいかけてほしい。 夕方の雰囲気になってきたフランスの見知らぬ町をバスで港に向かう。 しかし、最終船にも、彼らは現れなかった。 さて、問題だ。 というのも、夫は、目的地のサマーハウスの電話番号も住所も知らない。現金はわたし。荷物は、車。でも、車から荷物を降ろす為には、まず外さなくてはいけない自転車の鍵は、わたし。携帯電話は、わたし。でも、充電器は向こう。 島までの船の1時間。なにかの手違いで一本早い船に乗ってしまって、きっとむこうの港で待っているに違いないと祈りながら、普段なら、確実に船酔いするのに、酔いもしない。(心配事は船酔いによく効く、おすすめよ) 島が見えてきた。灯台のある岬の先端に男性が一人立っている。あ、あの中年太りのシルエット、夫だ!!甲板から、大きく手を振る。シルエットが、大きく手を振り返す。 なあんだ。やっぱり、先に来てたのか。ふたたび、元気良く手を振る。ふたたび振り返す。そうこうするうちに、船が岬に近づき、シルエットの実態が見えてきた。あ、別人。 ただの陽気な観光客だったのか。ま、むこうもばかに元気良く手を振る陽気な乗客と思っていただろうけど。 結局港で、待っているかもしれないという期待も裏切られ、予定よりかなり遅れて到着したことを詫びながら、鍵を預かっている管理人さんに港まで迎えに来てもらう。すでに、11時近い。さすがの夏のヨーロッパでも日が沈んで、暗い。 疲労困憊の(炎天下のナントの駅前で3時間も立って待っていた)ぼろぼろの東洋人の母と娘。しかも、着の身着のまま。 疲労を増したのは、フランスでは英語が通じないという事実。 何しろ、後日、酒屋で「チキンにあうワイン」が、伝わらなくて、羽ばたきの真似をしたあとコケコッコーと鳴いて見せたくらいである。(その話をホームページ掲示板にかいたら、「それで、ワインは買えたのか?鶏がでてきたんじゃないか」と心配してくださった方もいらっしゃって……) 何度も確認に行ったツーリストインフォメーションの係りの人に、「ここで、夫と待ち合わせなんだけれど、それらしい日本人を見かけなかったか」と、尋ねるだけで、一苦労。 バスの便を確認する案内の窓口で、格闘。さらに、切符売り場で、死闘。 通じないながらも、みんな親切。切符を買えないわたしに自動販売機まで、付いてきて買ってくれたりした。 もしかすると、わたしの身振り手振りと単語で、わかった振りをしていたが、理解していた内容は、「夫に捨てられたかわいそうな妻と娘」だったのかもしれない。 そういえば、視線にかすかに同情の色が。 管理人に事情を説明して、万一、事故にでもあっているかもしれないと、警察に問い合わせもしてもらう。とりあえず、一晩明かして、明朝、一番の船から、港で待ってみると伝えて、管理人には、帰ってもらう。 余談だが、その、一晩の間に、管理人から、オーナーへ、オーナーからわたしの知人へ、そして、知人から知人へ…と、生き別れ事件のニュースが世界中に周っていたとは、帰宅するまで知らなかった。インターネットは、こわい。 念のため、電源をonにしておいた携帯電話。でも、もう、ほとんど電池がない。充電器は、車。そして、それは、夜中に、悲鳴のようなピーッを二回鳴らすと、こときれたのだった。もう、これで、完全に連絡手段は断たれた。 翌朝は、見ず知らずの隣家のドアを叩いて、タクシーを呼んでもらう。なにしろ、タクシー会社もフランス語のみ。とても、見知らぬ土地の住所を伝える事ができない。 まさに、おぼれる者はわらをもつかむ。恥ずかしいだの、ご迷惑だの、考えている余裕がない。 一番の船が着く。娘とふたりで、ジッとみつめる乗客の波。でも、いない。 普通、最初の船で来るだろう。さては、別の島に行ったか。万事休す。 二番の船が着くまでの間に島のツーリストインフォメーションへ。やっぱり英語が通じにくい。「だれか、英語わかる人いませんか」と近くにいる人に声をかけて、客に通訳を頼む。 「夫とはぐれた。島に来ていれば、きっと、ここを尋ねるだろうから、このメモを渡して欲しい」 「着替えもないので、スーパーマーケットの位置を教えて欲しい」 おかげで、滞在中、ツーリストインフォメーションを訪れる度に、好意的なまなざしで、迎えてもらえるようになった。 しかし、聞くところによるとその島を訪れたはじめての日本人(らしい)とのこと。思いっきり日本人のイメージを下げました。ごめんなさい。 2番目の船、到着。人の波。いない、いない。岸壁の母の気分。 あ、いたぁ!! 娘と二人で、階段を駆け登って、夫と息子に抱きつく。 「会えてよかったぁ。会えてよかったぁ。」 はぐれるのも、数時間だと、怒れるが、一晩を超えると、怒りは喜びにかわるということが、わかった。 周囲で見ていたフランス人旅行者たちは、日本人と言うのは、随分派手な、会い方をする国民なんだなあと、思っただろう。 以下、夫との一問一答。 私「どこに行っていたの」 夫「ナントで迷って、道を聞いたら、全員フランス語だったから、インフォメーションに着くまでに二時間以上かかってしまった。しかも、教わったのは、駅じゃない方」 私「車を止めて歩いてこればよかったのに」 夫「現金がないから、駐車場に止められなかった」 私「カードで降ろせばいいのに」 夫「盗難で暗証番号が変わっていたので、おろせなかった」 私「携帯に電話してくれたらよかったのに」 夫「自分の携帯の番号なんて覚えていない」 私「最終の船に間に合わなかったの」 夫「港につく直前で、道に迷って、ついたら既に船が出ていた」 私「どうして1番の船でこなかったの」 夫「寝過ごした」 無事に会えたのが、奇跡みたい。 次回からは、目的地と携帯番号と現金をちゃんと渡しておかなくちゃ。
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