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喜怒哀楽

ただいまのテーマ

さよなら、スウェーデン

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   2001年9月30日。スウェーデンを後にした。
 スウェーデンに住んだのは、わずか2年半だったが、わたしとスウェーデンの付き合いは、実はもっと長い。
 以前にも書いたが、リンドグレーンの「さすらいの孤児ラスムス」を読んだ小学生の時以来、わたしは、スウェーデンの草原と干草納屋と夜中も明るい白夜にあこがれつづけていたのだ。
 
 高校生の頃、海外の雑誌にペンパル募集を載せたらたくさん返事がきすぎて困っているという知人から、スウェーデンの少女を紹介してもらって、以来、文通していた。

 その時、16歳の少女だったクリスティナと、二年半前、スウェーデンにやってきた直後、会うことになる。
「いつか、会いたいね」と、書き合って二十数年(歳がばれるなあ…)。本当に会える日が来るとは……。
 偶然、同じスコーネに住んでいたクリスティナは、この二年半、折に触れ、わたしに生のスウェーデンを紹介してくれた。ガチョウの日に血のスープをご馳走してくれた。夏至祭りもクリスマスも伝統的なものを再現してくれた。スコーネのそしてスウェーデンの風光明媚な場所を紹介してくれた。そして、つきあってくれた。

 わたしのスウェーデン到着直後、突然、クリスティナのお母さんが、亡くなった。ほんの数週間前、元気でわたしたちを歓迎してくれたのに。少女だったわたしが、日本から出したつたない英語の手紙を最初に受け取って、それをクリスティナに渡していた人だと思うと、実際には一度しか会ったことがないクリスティナのお母さんの死は悲しかった。

 そして、帰国間際、妻の死から徐々に弱り始めていたクリスティナのお父さんが、亡くなった。独身のクリスティナには、もう、同じく独身の妹しか、身寄りがいない。

 二年半の滞在中、わたしは二度結婚式に招待されて、人生の門出に立ち会うという機会を得ることができた。何人かの知人が、新しく赤ちゃんを生み、そのうち一度は、洗礼式にも立ち合わせてもらった。
 そして、二度のお葬式にも参列したのであった。

 帰国数日前、クリスティナと彼女の妹と、夕食を共にした。
「こんなものが、見つかったのよ」と、クリスティナが、おもむろに取り出したのは、何通かのエアメールの封筒だった。
 そして、良く見るとそれは、過去にわたしが出した手紙だった。17歳のわたしが、最初に出した手紙も含まれている。
 妙に気恥ずかしい気持ちになったわたしをよそに、夫は、興味津々で、読んでいる。

 それらの手紙を読みながら、「ああ、わたしは、この頃から、ずっと、いつかスウェーデンに行ってみたいと願っていたのだった」と、突然の感慨に襲われた。

 そうなのだ。同級生が、行きたい国を聞かれると「フランス」とか「スイス」とか「アメリカ」とか答える中で、ひとり、マイナーな(ごめん)スウェーデンにこだわり続けていた。

 実際に住んでみたスウェーデンは、高い税金と、しかしそれでも支えきれなくなりつつある高福祉の実態と、増えつづける移民と、発明の力はあるのに開発と営業の力がない産業と……多くの問題を抱えている。
 数百年、戦争をしたことがないという平和主義のかたわら、世界有数の武器輸出国でもある。
 男女平等とはいいながら、実際には、賃金の低い労働に女性が多いという現実もある。女性が働き易いように、保育の設備が整ってはいるが、一日のうち3食を学校で摂る子供たちもいる。
 性のタブーからは、開放され、既成の婚姻などにとらわれなくなったが、継父、継母そして、血のつながらない兄弟たちとの家族関係、人間関係は複雑化している。

 それらスウェーデンの現実をかい間見た現在。
 しかし、やはり、わたしは、スウェーデンが大好きだ。

 ここには、自然と人を大切にするシャイだが善良な心やさしい人々が、住んでいる。
 
 わたしが、いつもいらいらさせられた電話や窓口での長い待ち時間(時に、数時間に及ぶこともある)。それも、みんなが忍耐強く待つのは、「自分にも十分時間をかけて対応してもらいたかったら、他の人のその権利も尊重しようじゃないか」という精神にほかならない。

 何歳になっても、もう一度、勉強の場に戻れるスウェーデン。離婚も病気も破産も、人生の致命傷にはならない。

 この国では、人々は何度でも、いつでも、やり直しができるのだ。
 そして、それは、豊富な商品や、選択肢の多いテレビ番組などよりも、もっと、ずっと、大切で、素敵なことだ。

 ありがとう。スウェーデン。そして、さようなら。スウェーデン。

 ところで、先述した「過去のエアメール」。読んだ夫が、しみじみとこうのたまわった。
「今じゃ、絶対に書けない内容だねえ」

 確かに、その手紙。一字一字丁寧なブロック体で書いてある。外国に出す手紙に賭けた緊張感が伝わってくる。しかも、どうやら英文手紙用例集かなんかを見ながら書いたらしい。現在でも知らないような単語を使って書いてあったりして、文章も今よりずっとまし。

 しかし、良く聞くと夫の指摘のポイントは、別のところだった。
「それでは、まず、私自身について少し説明をしましょう。私の身長は、159センチ。体重は49.5キロです。」
 今じゃ、絶対に、正直に体重なんて、書けないだろ!って。ふん。余計なお世話っ!!



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